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——茶室を見るときのポイントを教えてください

小沢教授
(1)要素をおさえて、自分なりに関係性を考えてみよう
炉があることで点前座が決まり、床の間によって客の座る位置が決まる。そして入口によって導線が決まります。この3つの関係性に注意して、自分なりに使い方の仮説を立てながらみましょう。

(2)上から下まで舐めるように見よう
部屋をみるとき、つい漠然と目を動かしがちですが、空間というのは3次元の立体だから、上から下、右から左と、舐めるように見ましょう。経験を重ねていくと気がつくこと、見えるものが増えていきます。

(3)気になったものの名前を覚えていこう
名前を覚えると親しくなるのは、人も建築も同じです。これってなんだろうと気になったら名前を覚えたり調べたりしてみると、自分の辞書に言葉が増えていくし、愛着が湧いてきます。

大切なのは、たくさん見ること、何度も見ること、そして知識をもって見てみること。
私は学生の頃に西先生について行って、茶室のアクソメ(※)をたくさん描かせてもらった経験があるんです。それで、いざ講座で茶室を取り上げることになった時に、改めて平面図や写真をみると、描いた体験を通して実際の空間の記憶が鮮明によみがえりました。体験したことが、一番記憶として強いんですね。とにかく実際に訪れてたくさん見る、それこそ素振り百本のように(笑)。そうすると、この柱が3センチずれていたら…、ということに気がつくようになる。比べられるようになって違いがわかると、面白さがわかってきます。
ただ、お茶室はなかなか中に入れない。そのときお勧めしたいのが「写し」をみること。茶室では、とくに優れた作品のコピーを作ることを「写し」と呼んで、正式な手法として認められていました。このため、例えば裏千家のお家元の茶室は入れなくても、著名であればあるほど近代や現代に作られた写しがあるので、それに近い空間を体験することができます。

——これだけは押さえておきたい茶室ベスト3を教えてください

(1)又隠(ゆういん)
四畳半茶室の典型。
暗い洞窟のような空間で、しかも茶室の王道をいく四畳半。お茶室のキングオブキングというべき存在。

(2)待庵(たいあん)
基本となる四畳半をもっともっと狭めていった極小空間。
千利休が、お茶を点てるという行為そのものにできるだけ集中して、余分なものをできるだけそぎ落とそうという意味でつくった最小空間。お茶は一人ではできないということの証として、点前座と客畳の二畳だけで作られた、一対一の関係を極めてできあがった茶室です。

(3)燕庵(えんなん)
待庵に対する反動としてできた茶室。
利休のように相手だけを見つめているのは苦しいし、狭すぎてはお茶を楽しむ余裕が無い。もっとお茶を楽しんでもらうための、明るくて、お点前も道具もよく見えるお茶室。お茶室をどう演出するかという考え方が待庵とは全く違うので、ぜひ対比してみてほしい茶室。

——小沢教授の個人的におススメな茶室はありますか?

小沢教授 如庵(じょあん)
建築的な操作として好きな茶室です。
若い頃は直感的に面白いなと感じていたのが、茶室の要素がわかるようになってから空間的に面白いんだなと思うようになりました。二畳半台目の構成が非常によく考えられていて、使わない半畳の存在が空間をとても広くしています。ここまで狭くてもここまでできるというのがよくわかる茶室です。

——初心者におススメの茶室を学べる書籍

小沢教授
『初めての茶室』 建築資料研究社 (2000/06)/佐藤 理 (監修)
『茶室空間入門』彰国社 (1992/08)/船越 徹 (著), 中村 利則 (著), 熊倉 功夫 (著), 西 和夫 (著)
『茶室に学ぶ―日本建築の粋』淡交社 (2002/05)/日向 進 (著)
『日本の文化』(岩波ジュニア新書) 岩波書店 (2002/9/20)/村井 康彦 (著)

小沢朝江(おざわ・あさえ) 教授
工学博士。東海大学工学部建築学科教授。1986年、東京理科大学工学部建築学科卒業。1988年、神奈川大学大学院修士課程修了。2002年より東海大学工学部建築学科助教授、2007年より現職。1999年、日本建築学会奨励賞受賞。著書に『名城シリーズ11 二条城』(共著、学習研究社、1996)、『日本住居史』(共著、吉川弘文館、2006)、『明治の皇室建築―国家が求めた“和風”像』(歴史文化ライブラリー、吉川弘文館、2008)など。

【又隠(ゆういん)】
今日庵とともに裏千家を代表する茶室。1653年(承応2) 再隠居した千宗旦が造立した四畳半であり、利休が作った四畳半を原型とする。

◇又隠の写し
駒場公園旧前田侯爵邸和館 茶室
名古屋城 又隠茶席
http://www.city.meguro.tokyo.jp/shisetsu/shisetsu/koen/komaba.html

【待庵(たいあん)】
国宝。千利休作と信じうる唯一の現存茶室。にじり口が設けられた小間(こま)の茶室の原型とされる。
http://www.yabunouchi-ennan.or.jp/pc/contents11.html#map_08

◇待庵の写し
沼津市・沼津御用邸東附属邸 駿河待庵

【燕庵(えんなん)】
藪内家の代表的な茶室で,古田織部が大坂出陣に際し,京屋敷の茶室を義弟にあたる藪内家初代剣仲に与えたものと伝える。

◇燕庵の写し
香雪美術館 玄庵
無鄰菴茶室

【如庵(じょあん)】
国宝。織田有楽が京都・建仁寺正伝院に建てた茶室で、その後三井家の所有を経て、現在愛知県犬山市の名鉄有楽苑に所在。